ムダな行動力

写真とオーディオ、時々フランスネタとフライトシミュレーター

続・ペンタブは エクセル/パワポ芸人の業務使用に耐えうるか

最終的にこの配置に落ち着いた

以前の記事で試した「ペンタブは Excel / PowerPoint で実用可能か」について構成をアップデートして 1週間強みっちり使い込んでみた。最初から結論を書く。全然ダメ。

使用 3 日時点の前回の記事はこちら。

検証時の構成

前提として絵は描かない。あくまで Excel / PowerPoint / Outlook 主体のオフィス業務利用でペンタブが実用に耐えるかの実験である。絵を描かないのにペンタブとはこれ如何に。だが興味が出てしまったので仕方がない。

左にトラックボール、右にペンタブの配置。マウスは使わない。

ペンタブがダメだった点 (デメリット)

とにかくクリックにとことん向かないデバイスだと言える。

ペンタブ自体でクリックしてもクリック時にポインタがブレる。ペンのボタンにクリックを割り当ててもボタン押下の衝撃でブレる。ダブルクリックなど以ての外だ。

ペンタブはポインタ移動のみと割り切って左手のトラックボールでクリックを担うとかなり楽になるが、それでも空中に浮かせた指を完全静止させることは難しいので、10 回に 1 回はブレてしまう。仕事中の 10 回に 1 回は大きい。

さらにトラックボールに手を置いているとキーボードショートカットが使えない。オフィス作業では致命的だ。

Excel とペンタブ

ソースとなるデータの入った表をざっとスクロールして少し数式を足してズームアウト、別シートに切り替えて参照式を書き、一応検算のため両シートを行き来して目視、なんてケースはよくあると思う。

ヘビーな作業になるとキーボードだけで操作することが多いが、上のような軽い編集であればセルの選択はマウスで行う方が早い。「クリック」である。

一覧性重視のために 4K ディスプレイにしているのでセルは細かい。クリックして F2、のつもりがクリックがズレる。セルをダブルクリックのつもりがセルの右下にあたって下にコピー。

セルの中央ではなく端をダブルクリックしてしまうと…

静止できないのも問題だ。「あーこれどこだっけなー」とぼんやり考えながらカチカチとセルを選んでいる時は案外多い。ペンタブは宙に浮かせて移動するため、その度クリックがズレる。気付いたらドラッグしてセルを移動させてしまうことも多い。

スクロールはトラックボールで快適になったが、ズームが不便だ。キーボード+マウスだと左手 Ctrl + 右手ホイールで簡単だった操作が、右手をキーボードにやって Ctrl+Shift、左手でトラックボールと途端に複雑化する。

こうなると段々と集中できなくなってくる。

よく使う表のイメージ / e-Stat の住民基本台帳人口移動報告より

PowerPoint とペンタブ

オブジェクトの配置とは相性がいいと思ったが予想外にこれがダメだった。やはりブレるのだ。最たる例がテキストボックスだ。

テキストボックスはクリックのみで配置すれば幅指定なし、即ち書いた分だけ右に伸びていく形で配置される。ドラッグで配置すれば幅指定ありとしてその幅で強制的に折り返しがかかる形になる。

私は 99% 幅指定なしで使う人間なので、過去はマウスで望む位置にクリックした後にキーボードで入力するというごく一般的な工程だった。ペンタブは上述のブレが問題になる。書くより画像で示した方が早い。

テキストボックスに幅が設定されてしまう

これが 10 回に 1 回起きてはストレスマックス。

さらに Excel でも軽く述べた、左手がトラックボールに取られてしまう問題が PowerPoint でも健在だ。複数のオブジェクトの端が揃わず乱雑な見た目になってしまう、なんてことにならないように Shift 押下しながら移動させて位置を微調整したり、Ctrl 押下しながら移動させてコピーしたり、といった作業が多い。

左手がトラックボールにないと精緻なクリックができない。左手がキーボードにないとショートカットが使えない。究極の二択だ。

エクスプローラ とペンタブ

ファイル管理はどの職種でも大事な作業になるだろうが、ここでのブレは危険だ。下図では PNG 画像を Downloads フォルダに移動させようとしてるイメージだが、これがうっかり下の PC などに入ってしまう。

Excel / PowerPoint と違ってエクスプローラでの Ctrl + Z の信頼度はあまり高くないし、ネットワークフォルダや OneDrive 上だと事態は悪化する。

移動した (保存した) はずの資料がそのフォルダにない (かもしれない) なんてことは業務では絶対にあってはならない。

無事に「Download」フォルダに落とせるか

もう一つ挙げるなら「うっかりドラッグ&ドロップ」もエクスプローラでは致命的な結果になることが多い。ネットワークフォルダのかなり上位の階層で A フォルダ を B フォルダに突っ込んでしまって「ファイルの移動中」ダイアログが表示された暁には…。

Ctrl + Z でどこまで戻るのか、そもそも効いたのか効いていないのか…。こんなリスクを抱えて業務はできない。

ペンタブが便利だった点 (メリット)

やっぱりペンタブは名前の通りペンを使う作業に生きる。それ以上でもそれ以下でもない。

ビデオ会議中の図示

元々これがしたくてペンタブを買った。やはり良い。パワポより早い。パワポなら話しながら四角を配置するところまでしか出来ないがペンタブなら図示できる。

複雑な管理ファイルの設計だったり、大規模プロジェクトの相関図やスケジュールの相談だったりがホワイトボードなしでしやすくなった。

チームにペンタブを布教すると皆で書き込めるので最強になる。デメリットは、こんな機会は一日に一回くらいしか無いことだ。

こんな構成にしよう、と書きながら話せる

脳が活性化する (時がある) & 姿勢が良くなる

恐らく各人の習慣によるところが多いが、私の場合はマウスを持っていると基本ぼーっと眺める意識になる。ペンは書き物なので脳が目覚める。加えて意識の張り具合でポインタ精度が変わってくるので自然と集中するようになる。(これは良いことだろうか?)

また、ペン操作は姿勢と精度が相関するので、マウスのように気付いたら寝そべってるということが無くなる。猫背の自分にはとても有難い。実はこの効能があったからマウスを廃してペンタブへの移行を図っていた。

余談だが Kensington の Slimblade Pro の一機能である、トラックボールを時計/反時計回りに回転させるとスクロールというのが快感だったところも、今回の実験のモチベーションへ拍車をかけた。

自然と背がピンと張る

まとめ

左手デバイスの追加で飛躍的にポテンシャルを伸ばしたペンタブの業務利用であったが、当初から懸念していたクリック精度の課題がオフィス利用には致命的だった。これは慣れの問題ではなくペンタブの持つ構造的な苦手ジャンルだ。結果として左手の取り合いとなってしまう。

  • ショートカットは都度手を伸ばすことにして左手デバイスでクリック精度を取る
  • クリックは精神統一で努力してキーボードショートカットを取る

キーボード + マウスで不自由なく両立できていたクリックとキーボードショートカットが二者択一となってしまうのだ。それに対して得られるものが一日一回の手書き効率と姿勢だけである。

考えうる対策 1 : ディスプレイのスケーリングを上げる

クリック精度がでないならクリックできる範囲を広げたらいいじゃない。Windowsタブレットモードのような発想。業務ソフトなどでスケーリングが効かないものもあるので半分正解半分不正解。でも画面が狭くなってしまう。何のための 4K なのだ。

考えうる対策 2 : ペンタブのサイズを上げる

現在使用してるのは Intuos Pro S。M サイズ以上が常識のイラスト界隈からすると極小で、そりゃ精度でないでしょと言われるだろう。しかしマウスでは同じ手の移動範囲で問題なかったのだ。腕の移動量が増えるとシンプルに「だるい」。

考えうる対策 3 : キーボードからクリックできるようにする (特殊配列)

キーボードから手を話さずに左手でクリックできれば良いのであれば、キーボードにクリック機能を持たせれば良い。クリックは頻繁に操作するので左右とも独立してデフォルトレイヤーに位置させるのが好ましい。

であれば「自作」である。だがしかし自作キーボード界隈はエンジニアが主体、即ち文字打ちだけで主業務の大半がクリアできる方が多い。Excel / PowerPoint 芸人は F2 / F4 / F12 や右クリック・マウス移動を頻用するので、キー数を削りがち (レイヤー化しがち) な自作キーボードの中でニーズに合った既存品が見つからない。

基盤を書く能力はないので詰んだ。

cocot46plus / 画像は GitHub のビルドガイドより

考えうる対策 4 : マクロキーボードを用いる

キーボードの真横か真下あたりにこんなの置いとくか? 結局器用貧乏で上手くいかない気がする。そしてちゃっちいのしか見つからない。雑に触っても微動だにしないずっしりしたものがあれば考える。

アリエクにあるマクロキーボード。5,000円くらい。

結論

何をしても帯に短し襷に長しなので、本来の用途がない人がテレワークでテンション上がってペンタブを買うことが無いように。絶対に後悔します。

自分の場合は RAW 現像でマスク用にペンタブが欲しかったので、元々あるペンタブを業務で転用するなら許せる範囲という発想だ。

冒頭の写真。たまにしか使えないペンタブは奥に追いやった。

余談

それにしても Slimblade Pro にはハード的にもっとポテンシャルを感じるのだがなんとか出来ないだろうか。10年前の付属ソフトには「View mode」たるものがあり、大玉をパンとズームに使えたようだが、ニーズがなかったのか技術的に不安定だったのか最新のソフトには影も形もない。これがあれば左手デバイスとして強力なんだがなぁ。

Slimblade 無印の View mode